【書籍レビュー】上野アンダーグラウンド/本橋 信宏【書評】

こんにちは。
神矢翔( @kamiya_S25)です。
 
一年以上かけて上野を取材して書き上げた、渾身のノンフィクション作品。
上野のディープな魅力がたっぷりだ。
 
上野とあまり関わりがない人が、上野と聞いて思い浮かべるのは博物館群と動物園だろうか。
大量の博物館や東京藝術大学があるこの地は、芸術の聖地と呼んで差し支えないと思う。
こんなに文化施設が集まっている街というのは、東京でもあまり思いつかない。
その反面、一歩入ると性風俗、ゲイカルチャー、在日コリアン、パチンコ等々アンダーグラウンドな部分が顔を出す。
「一歩入る」というより「山を下りる」という表現の方が適切だろうか。
そういう地理的な部分にも本書は注目している。
上野は、文化芸術とアンダーグランドな部分が混在するカオスで面白い街だ。
 
タイトルの通り「アンダーグラウンド」な部分に光を当てた本だが、それらを見世物的に書き散らすのではなく丁寧に取材をし、上野の歴史的な背景もしっかり押さえている。
歴史的な部分をまとめて書くのではなく、テーマに応じて折々に入れているのもポイントが高い。
風俗やサウナの取材など、「潜入」っていうところも多いのでその点も楽しめると思う。
 
著者の上野との関わりは古く、そもそもは両親の初デートの場所だったらしい。
著者が2歳のときに西郷像の前で記念撮影した写真も収録されている。
若い頃には西郷さんの前で待ち合わせをして、「学生ホスト」をやっていた。
この頃のホストというのは、女性向けのデリヘルのようなものだったようで、上野や湯島のホテルを利用していた。
 
さらに、著者の義父が津軽の人で出稼ぎで東京に来ていた。
この義父が上野で食べたラーメン屋探しは何度も出てきて、全体の縦軸として機能しているため、全体に繋がりが出ている。
この義父のくだりは感動的なラストを迎える。
この本がアンダーグラウンドの寄せ集めではなく、一つの作品となっているのはこの義父の役割が大きい。
 
あまり良くない点としては、上野はネタが多すぎるがゆえに一つ一つが掘り下げられないというところがある。
テーマを絞って深く追求するというのも面白いかもしれない。
網羅的な書き方も、読んでいると色々な要素に触れられて面白いんだけどね。
 
こういう本は実際に知っている土地だと面白い。
上野はかつて近くに住んでいたことがあって、文章で書かれていても大体どのあたりかが見当がつくから面白かった。
また上野の街を歩いてみたいと思った。
一見綺麗になっている上野だけど、そこから零れ落ちている人たちもたくさんいる。
この本を読んだ後だと、これまで見えていなかったものが見えるような気がする。
 
この本の著者は渋谷と新橋の本も書いているみたいなので、次に読んでみたいと思う。
というか、新橋の方はもう注文している。
読んだら同様に感想を書きたい。
 

 

上野アンダーグラウンド

上野アンダーグラウンド